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「生まれながらのコーディネーター」

富永 一夫(とみなが かずお)

日本テトラパック(株)に21年勤務。同社を退職し、多摩ニュータウンでの地域づくりNPO活動を開始。マンション管理組合の理事としての経験を基に、NPOによるマンション管理事業を手掛ける。さらに、コーポラティブ住宅建設の支援事業、長池公園の指定管理者として八王子市と協定。NPOの地域支援ビジネスモデルの構築に挑戦中。

富永 一夫

2014年12月22日 第4回 NPOだからできる、スマートな公園管理

第4回 NPOだからできる、スマートな公園管理

「スマートパークアイ」登場
これまで、3回にわたって私たちが経験したことを書いてきた。今回は、今まさに私たちが取り組んでいる事業、現在進行形の試みをご紹介しよう。
私たちは、2014年4月、八王子市東部地区の公園・緑地の指定管理者にもなった。長池公園で管理手法を培ってきたとはいえ、いきなり管理対象が152の公園・緑地に広がるのだ。「本当にできるのか」と危ぶむ声も少なからずあった。
最大の課題は、152の公園のどこで、何が起きているかを、正しく迅速に把握することにある。日々、公園の現場で整備に汗を流し、現状を知っているのは、NPOフュージョン長池と連合体を組む造園会社の職人さんたちだ。しかし、職人さんたちが毎日パソコンで業務報告を作成して送信するのは、なかなかできることではない。ではどうするか?そのとき、報道番組で、市民が市内の落書きをスマートフォンで撮影して行政に通報するという試みを見て「これだ!」と思いついた。すぐさま自治体に連絡を取って、話を聞きに行った(私の行動は素早いのだ)。担当の方から、実務的に貴重なお話を聞かせていただいた。
職人さんたちは、工事の前と後に写真を撮って記録するという習慣がついている。この習慣を生かして、スマートフォンで作業前後の様子を撮影してアプリで送信してもらえば良い。報告書を作成する手間が減る、追加されたのは「送信する」手間だけだ。私たちは送られてくる写真をデータベース化するシステムを用意した。これで152の公園の様子が効率的に把握できるようになった。私たちはパソコン上で公園名と現状を確認し、適切な情報管理をすることができる。新たな公園管理システム「スマートパークアイ」の完成だ。
「地域の多様な人材」登場
指定管理者として、市民に気持ち良く公園を使っていただくためには、緑地管理や修繕だけでなく日々の巡回清掃が欠かせない。このため、ユニークな3つの団体に協力を仰いでいる。第一に、女性だけの清掃チームだ。男性よりも、きめ細やかな清掃をしてくれるのがありがたい。安全を考えて2名でチームを組み、現在3つのチームが稼働している。
第二に、シルバー人材だ。152の公園の中には、利用頻度が高い公園がある。そういった場所には手厚い人員配置が必要で、シルバー人材の方々が欠かせない。シルバーの方々には長時間の労働は求めない。一人1日3時間からの勤務で、多くのシルバー人材に従事してもらっている。
第三に、福祉団体(精神障がい、知的障がい)の方々だ。福祉団体の方々が就労することは難しいが、実は簡単な仕事ならば健常者よりもきちんとやってくれることが多い。揃いのユニフォームを着て、大勢で楽しそうに仕事をしている。住民が声を掛けてくれることもあり、治安維持にも一役買っている。なお、福祉団体に仕事をお願いすると、行政の福祉予算から支援がある。私たちだけでは十分な報酬は支払えないが、足りない分を補っている。
この他にも、様々な人たちが関わっている。地域の大学の学生たちがオープンカレッジで製作する竹のオブジェのために、トラックを仕立てて竹を引き取りにきてくれたことがある。生育力が強く、なかなか腐らない竹の処分に困っていた私たちにとって、渡りに船だ。困り事同士がうまくマッチングした好例だ。
人間だけではない。近隣の牧場のヤギを公園・緑地に連れてきて、除草を行っている。ヤギで除草の効率が上がるわけではないが、親子連れの利用者や近隣住民の癒し、知的障がい者のアニマルセラピーになるし、ヤギを飼っている元・酪農家の方に大きな生きがいを提供できたことも嬉しい。
「刈り残し」という環境保全
「刈り残し」という、新しい公園管理の考え方にも触れておこう。公園を整備する、というと下草を綺麗に刈り込むことをイメージする人が多い。しかし、草木を無差別に刈り込んでしまうと、公園内に、野鳥が巣を営んだり、ウサギやタヌキが遊んだりする場所が無くなってしまう。「綺麗に刈り込む」ことは、実は人間の勝手な都合なのだ。「自然を愛する」と言いながら、見た目の綺麗さを求めることと環境保全は、大きく矛盾していることがある。
私たちは、多様な生き物の居場所を確保するため、公園の一部をわざと「刈り残し」て、手つかずの状態に保つ手法を試みている。だが、そうすると、一部の利用者から「公園管理がなっていない」「手を抜いている」と苦情を受けることがある。「刈り残し」の効能は、説明してもなかなか分かってもらえないので、結局、泣く泣く刈ってしまうことになる。怒っても仕方がない、理解してもらえるように説明できなかった私たちが悪いのだ。そこで、次からは、と看板を整備して、「刈り残し」の意義を説明する。時々、看板の前に立ち尽くして説明を読みふけっている利用者を見かけることがある。そんなときは「これで理解者を一人増やすことができた。一歩前進だ」と嬉しくなる。
地域社会は企業組織ではない。ルールを決めて押し通すわけにはいかない。そこで、押したり引いたりしながら、落としどころを見つける努力をする。白黒をつけないところがいいのだ。地域コーディネーターは、こういった「良質な曖昧さ」を大事にする。
成果を左右する「人組み」「組織組み」
ここまで、最新の取組を紹介してきたが、公園を利用する人、働く人、様々な人が登場していることにお気づきだろうか。これらの人々は、言うなれば多様に咲き誇る「お花畑」だ。お花畑の「表土」になっているのが、公園の指定管理者である私たち「スマートパークス由木」や「フュージョン長池公園」という連合体だ。さらに、私たちの活動を、公園という財産の所有者である八王子市が「岩盤」となって支えている。
指定管理者制度が生まれる以前は、「岩盤」である八王子市等の行政が、「表土」の役割も担っていた。そうすると、どの公園でも平均的で同じようなサービスを提供することになる。「お花畑」である多様なサービスを求める利用者には喜ばれなくなっていた。しかし、民間の指定管理者は管理範囲が限定されているため地域の風土や住民気質の実情に合った管理ができる。行政にとっても、地域による公園管理手法の違いは指定管理者の違い、と説明できるので、ありがたい制度と言える。
八王子市東部地区の152の公園・緑地は、NPOフュージョン長池だけでは管理できない。このため、造園会社と電気工事会社3者で連合体を組むことにした。いずれも地域の立派な法人だ。その際に、NPOフュージョン長池が、企業2社の代表に立つのは、具合が悪い。考え抜いた揚句、「一般社団法人スマート」を設立して代表団体にし、3社はいずれも一般社団法人の対等な構成者と位置付けることにした。これによって、特定の企業・団体に権限が集中しない仕組みができた。また、リスクも4者に分散することができる。その上、意思決定権も明確になる。このようなやり方は、15年かけて積み重ねてきた私たちの知恵の結実だ。
地域コーディネーターの大切な仕事は、人や法人などの資源をどのように組み合わせるかにある。まず、人や組織が集まる目的を明確に示す。次に、地域の関係者が納得できる組み合わせと役回りを示す。最初の「人組み」「組織組み」が、成果を左右する大きな要因になる。私たちの現在の取組は、「一般社団法人スマート」の設立という手法を編み出したことで、未来につながる大きな一歩を踏み出したと考えている。