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「生まれながらのコーディネーター」

富永 一夫(とみなが かずお)

日本テトラパック(株)に21年勤務。同社を退職し、多摩ニュータウンでの地域づくりNPO活動を開始。マンション管理組合の理事としての経験を基に、NPOによるマンション管理事業を手掛ける。さらに、コーポラティブ住宅建設の支援事業、長池公園の指定管理者として八王子市と協定。NPOの地域支援ビジネスモデルの構築に挑戦中。

富永 一夫

2014年9月08日 第1回 コーディネーターを目指す方へ

第1回 コーディネーターを目指す方へ

どうすればなれるのか?
「どうしたら富永さんみたいになれるのですか」と、よく聞かれる。そのたびに私は答えに窮してしまう。「いや、何も難しいことはないですよ」と取り繕うのだけれど。 私は、昔から自分がやりたいようにやってきた。特別意識してコーディネーターになろうと思ったことはない。気が付いたら、世の中から「コーディネーターらしい人」と言われるようになっていた。だから、こんなことを言うと怒られるかもしれないが、皆が私のようにできないのは、なぜなのか、そこのところがよく分からないのだ。申し訳ない。
もしかしたら、私は「生まれながらのコーディネーター」かもしれない。自然にそうなってしまったから、どうすればコーディネーターになれるのか分からないし、言葉にするのも難しい。でも、私も次の世代のコーディネーターを育てなければいけない立場になってきた。だから、難しいのを覚悟の上で、これから「どうすれば、コーディネーターになれるのか」を綴っていきたい。回り道は多いかもしれないけれど、ご容赦いただきたい。
目の前の人に波長を合わせる
私は、外資系企業で20年以上勤務してきた。営業の仕事には特にやりがいを感じた。今、地域づくりNPO活動に奔走するようになって、その当時の経験がとても役に立っているのを感じる。
地域には、実に様々な立場の方がいる。まず、そこに暮らす住民がいる。朝早く家を出て夜遅く帰ってくる、地域との関わりは休日だけという人たちがいる。一方、子育て期で、地元の幼稚園、小学校、公園、スーパーマーケット等々が生活の中心になっている人たちがいる。また、無償のボランティアとして地域づくりに取り組む人たちがいる。地方自治体の職員がいる。利益を第一に考える地元企業の方もいる。こんな、様々な人たちに、いつも同じような言葉で語りかけ、同じような態度で接していては、とても地域づくりはできないし、コーディネーターの役割は果たせない。目の前にいる人に合わせて、自分を変えていかなければいけないのだ。ちょうど営業マンが、目の前のお客様に合わせて商談を進め、最後にはお互いにWin-Winの落としどころを見つけるように。
だから、地域コーディネーターは自説にこだわってはいけない。目の前の人を自分のシナリオ通りに動かそうとしてはいけない。相手の波長に合わせ、素直に意見を聞いたうえで、皆が「まあ、それでいいか」という落としどころにもっていく。コーディネーターは「黒子」なのだ。それも、ちょっと目立つ「黒子」だ。
地域づくりの「残念な人たち」
先に、私は「どうすればコーディネーターになれるのか分からない」と書いた。一方で、「コーディネーターに向かない人たち」の条件は、はっきり言える。
最近、企業を定年退職した人たちが、第二の人生の生きがいとして地域づくり活動に取り組むことが多い。中には、管理職や役員を経験した人たちもいる。大変に有能な人材だ。ところが、企業でピラミッド型組織の上部にいることに慣れ、上意下達の組織運営が染みついた人たちが地域づくりに参画すると、非常に面倒な軋轢を生むことがある。
何しろ、地域社会は多様な人たちの集まりだ。利益や効率性だけで動く人たちばかりではない。そこでつい、「どうしてこうしないんだ、このやり方がいいに決まっている」と、自分の意見を押し付けてしまう。それで、たちまちそっぽを向かれて、せっかく能力のある人たちだというのに残念なことだ。企業で成功したリーダーシップのスタイルと、地域づくりで求められるリーダーシップは違うのだ。
文鎮逆さ型リーダーシップへの転換
私は、地域づくりで求められるのは「文鎮(ぶんちん)逆さ型リーダーシップ」だと考えている。習字で使う文鎮には、小さな「つまみ」がついている。この「つまみ」を下にして逆さに置いたところを想像してみて欲しい。グラグラと頼りなく揺れる文鎮、ちょっと間違えると、たちまちバランスを崩してしまう。地域づくりにおけるリーダーシップとは、まさに文鎮を逆さにした「つまみ」の役を引き受けることに他ならない。 「つまみ」には、文鎮の重みが全て加わる。しかし、「つまみ」は文鎮の底になっているので、頑張って重みに耐えていることは他の人には分からない。一方で、ちょっと調整を間違えてバランスを崩すと、あちこちから文句が殺到する。何事もなくて当たり前、うまくいっても、めったに褒められることはない。しかし、それでいいのだ。そのような黒子の役割を喜んで引き受けられる人が「地域コーディネーター」だと思う。
一見、地域コーディネーターはリーダーシップを取っていないように見える。そうではない。地域コーディネーターの役割は、日本語で「指導」と言った方が分かりやすい。犬の首に紐(リード)を付けて、引っ張りまわす役割ではない。「こちらの方向に行った方が良さそうですよ」と、進むべき方向を指で示し、導くのが地域コーディネーターのリーダーシップだ。江戸時代で言えば、「人気のある庄屋さん」、といったところか。
昔の人望のある庄屋さんには、人が集まったという。人間力と言っても良いかもしれない。地域コーディネーターにも、当然、人間力が必要だ。次回は、コーディネーターに求められる人間力について考えてみたい。